東京高等裁判所 昭和57年(く)17号 決定
被告人 金子信哉
〔抄 録〕
原決定が判示する右保釈取消理由につき検討するに、原決定が被告人において罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると判断した主要な点は、被告人が第一回公判期日において捜査段階での自白を飜して公訴事実の主要な部分を否認し、さらに第二回公判期日において検察官が取調を請求した書証の大部分につき不同意とした点にあることは、右判示自体に徴し明らかであり、右事実は記録によってこれを認めるに十分である。
しかし保釈を許された被告人が公判廷において当初の自白を飜し、重要な検察官請求の書証を不同意とすることは、しばしばみられる例であって、このような被告人の態度が必ずしも常に罪証隠滅工作につながるものとも即断するわけにはいかない。のみならず、かりに本件事案が原決定の判示する如く重大事犯でありかつ関係者らの供述と被告人の供述との間に矛盾するものがあるとしても、前記のように第一回公判期日前の保釈請求が結局罪証隠滅を疑うに足りる相当な理由がないとして認容された被告人が公判廷において捜査段階での自白を飜し書証の取調に同意しなかったからといって保釈中の被告人において、いまだ事件関係者や証人になろうとする者に対する働きかけあるいは共犯者と通謀する等の具体的な状況の存在を疑わせる資料が記録上認められない本件においては、たとえ証人尋問の予定される関係者の多くが被告人と職場を同じくする者であり被告人においてこれら関係者に働きかける余地が考えられるからといって、いまだ刑訴法九六条一項三号の事由があるとすることは困難である。したがって、これありとして被告人の保釈を取り消した原決定は失当であ<る。>
(菅間 高木 松本)